エンパワメントの基礎知識1
「エンパワメントについてよく知っている」
と言えそうです。
初級編:エンパワメントが出現したながれ
エンパワメントというのは、概念の一種です。考え方や視点を表す言葉です。これを相手に説明する時には、いつ、どのような時代の流れで生まれたのかを教えてあげるのが、良いとっかかりになります。
現在福祉分野などで使われている意味でのエンパワメントは、ざっくりいうと、アメリカの公民権運動*1から始まっています。キング牧師の「I have a dream!」のやつですね。
公民権運動は、差別をなくす/差別は間違っていると訴える運動であったのと同時に、黒人が差別によって奪われたいろいろなものをとりもどす運動でもありました。エンパワメントというのは、この、「とりもどす」過程に名前を付けて誕生した概念です。この「とりもどす」過程は、大きく分けて3つの段階があります。
1.あきらめる
黒人たちは、運動が始まる前は差別に打ちひしがれ、あきらめている状態でした。差別というのは、全部「いわれのない」ものなので、本来信じる必要もなければ従う必要もないはずです。しかし、圧倒的な圧力で差別されると、段々と差別が染みてくるようになります。差別はおかしいとか、いやだ、と思えなくなってくるのです。これはパワーレスとか、ディスエンパワメントとか呼ばれています。
2.気づく
しかし、キング牧師やら同じ境遇の仲間から「差別ってやっぱりおかしくね?」という声を聴き、「だよね!」と気づいた途端、黒人たちの状況は劇的に変化していきました。
3.とりもどす
今まで「黒人は劣っているから差別されているのである」「白人と黒人というのは同じ権利がないのが当たり前」と思い込まされていたのは、社会全体が黒人をしいたげるシステムを作っているからであって全然正当性なんて無いじゃないか、と分かってくるのです。そして、自信や権利を取り戻すに至るというわけです。このような過程をエンパワメントと呼びます。
このような、いわれのない抑圧からいろいろなものを奪われて一時はあきらめる→「おかしくね?」と気づく→奪われたものをとりもどすという過程を表す言葉としてエンパワメントは生まれました。
今回はエンパワメントという概念が生まれた経緯をまとめました。今回説明したのは、エンパワメントの意味は、当初はどういう意味だったかということです。これがわかっていると、エンパワメントについて一応知っている、といえます。
現在は、別のエンパワメントの捉え方もあります。すべての場合にあきらめる・気づく・とりもどすの過程が適用できるとは限らないので、今の時代にエンパワメントの説明として使うには注意したい内容です。*2
次回はエンパワメントの基礎知識中級編です。これを知っていると、「エンパワメントにはちょっと詳しい」と言えそうです。
もっと詳しくなりたいときは、この本とか読むといいかもしれないです。
エンパワメント実践の理論と技法―これからの福祉サービスの具体的指針
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